2022.10.24
前回の記事で、「顧客体験価値」を実現するためのコンセプトとして、CXX(顧客体験価値戦略 / Customer eXperience Transformation)を提示しました。
ではそのCXXを実現するために、企業はどのような組織モデルに変革していなければならないのでしょうか。その解として、弊社ではCXXを実現するためには、以下の3点が要諦と考えます。
今回はまず「サービス・ドミナント・ロジック」について、解説します。
目次
サービス・ドミナント・ロジックはそれぞれマーケティング担当の教授であった、アリゾナ大学のロバート・F・ラッシュ教授と、ハワイ大学のスティーブン・L・バーゴが2004年に提唱した理論です。
その本質は、顧客と企業及びステークホルダーとの関係性を重視し、価値に共創を取り入れ、ネットワーク型の考え方を提案した、現代における”エコシステム”の観点を取り入れた理論です。
サービス・ドミナント・ロジックは、それまでの相対的な対象として、「グッズ・ドミナント・ロジック」との対比を持って、説明されます。
要点をまとめると、主に以下がサービス・ドミナント・ロジックの特徴です。
では企業はサービス・ドミナント・ロジックという考え方において、企業はどこまでの価値を顧客に提供するべきなのでしょうか。
結論は顧客が”価値を創造する”までの一連の活動全てです。
前回例に挙げた”ドリルの穴”でご説明しましょう。下図の通り、既存の考え方であるグッズ・ドミナント・ロジックでは、ドリルを売って終わり、他方サービス・ドミナント・ロジックでは、顧客が実際にドリルを使って作業をし、目的としていた工事が終わるところまでが価値であるという考え方になります。
ラッシュ教授・バーゴ教授はサービス・ドミナント・ロジックを実現するために必要なのはオペラント資源と提唱しています。
オペラント資源は聞きなれない言葉ですが、その定義は”主に顧客との共創関係において作られた、スキルやナレッジなどの無形資源”であり”継続性”が特徴です。
具体的例としては以下が挙げられます。
例)クラウド・SaaSなどのシステムの場合
例えばよくある質問(FAQ)。
今やサービスを提供する企業に欠かせないFAQですが、導入当初はこれまでお問い合わせがあった内容からピックアップして、FAQを制作する企業が一般的でしょう。
さらにFAQに乗っていない質問があれば、その回答をFAQに追加していく。
それによってFAQが充実し、顧客の自己解決率が高まります。
自己解決率が高まれば、副産物としてCSなどのお問い合わせ窓口へのお問い合わせ数が減少し、ひいては企業経営としての効率化が進むという効果も得られるでしょう。
またレビューにおいては、企業側が想定していなかった使用方法から新たな市場機会やニーズを発見することも可能です。
これら中心にあるのは、”顧客との共創関係も企業が提供するサービスの一部である”という観点です。
つまり、そのタッチポイントを作っているか、もしくはその顧客の声を拾い上げて、サービスやモノ作りという観点から改善をするための示唆として受け止め、分析し、改善する組織や機能は用意しているか?ということになります。
BtoC企業において、ある程度の規模のほとんどの会社はカスタマーサポートやサービスの組織が存在しています。
特に通販チャネルやECチャネルを持つ企業は受注、購入や発送を中心としたカスタマーサービス、もしくは商品の品質に関するお問い合わせを受けるカスタマーサポートなどが一例です。
ただし、私の経験で言うと、これらの大切な顧客接点から、クレームを2度と起こさないためにFAQを充実させる観点はある一方で、顧客との共創関係を持って、顧客のゴールに導くための改善ができる企業はほとんどないのではないでしょうか。
そして前者と後者の大きく違います。すなわち、前者は顧客を困らせないことが目的、後者は顧客の成功が目的なのです。
顧客の体験としての成功=カスタマーサクセスは、サービス・ドミナント・ロジックにおいてもその主張を支える重要な考え方です。
”顧客が成し遂げたいこと”(ジョブ理論 Jobs-To-Be-Done)を淀みなく理解し、その成功に繋がる一連の体験をゴールとして、顧客の声から改善をしながら、顧客体験の成功に導く。
これこそが企業活動の本質ではないでしょうか。
もちろん、その活動において、様々な制約がつくことでしょう。
それでも強い意志を持って、顧客体験の成功を希求し続けていくことが、経営に求められます。
ここまで、サービス・ドミナント・ロジックの考え方をお伝えしました。
ではどのように実現するか。
いくつか論点を整理していきたいと思います
まずはオペレーション。
カスタマーサービス組織が顧客の声をきちんとデータとして蓄積し、参照できる状態に整理できるかが重要です。
これは一つ一つのお問い合わせについてメモをデータとして蓄積するだけではなく、予め決めておいたお問い合わせジャンルをタグづけします。
このタグによって、どういったジャンルのお問い合わせが多いかを定量的に把握することが可能です。
件数にはよりますが、お問い合わせをメモやタグづけし、分析するためにまずはスプレッドシートなどで数ヶ月試してみるのはコスト的にも効果が実証できるかを確認する期間としてもよいでしょう。
そのテスト運用をしている中で、定量データをリアルタイムで確認することや、FAQと連携をさせる、電話やメールだけのお問い合わせチャネルのみならず、SNS(LINE公式アカウントなど)のお問い合わせチャネルも一元データ管理をしたい場合は、Zendeskなどのカスタマーサービス向けツール導入もおすすめです。
オペレーション側で定量的に把握したお問い合わせジャンルのタグから、より深堀をしたり、他のデータとの掛け合わせを持って分析、必要に応じて経営層へのレポートや、製品部門・通販オペレーション部門と連携できる組織やヒトが必要です。
この組織・ヒトはとても重要で、顧客体験価値の品質を横断的にマネジメントする担当とも言えるでしょう。
組織は単独で設置してもいいですが、各関連セクションに依頼・アドバイスする権限は最低限必要です。
カスタマーサービス部門の声を製品やサービスの向上、ひいてはカスタマーサクセス(顧客体験価値の成功)へ導くために活用することをコミットメントするメッセージングが必要です。
このメッセージがないままだと既存の組織ヒエラルキーによって、顧客の声自体が握りつぶされる恐れもあるでしょう。
今回はCXX(顧客体験価値戦略 / Customer eXperience Transformation)の3大ポイントうち一つ”サービス・ドミナント・ロジック”について説明しました。
組織がサイロ化しているうちは実現しませんし、ツール類だけでも実現しません。
よく弊社ではヒューマンタッチ、テックタッチという整理をします。ヒューマンタッチは電話やメールなどの接点、テックタッチは顧客のデジタル上での接点を指します。
サービス・ドミナント・ロジックにおいては、どちらか一方だけ、もしくはそれぞれを別で捉えるということなく、顧客のIDを持って観察・共感することが必要です。
DXが叫ばれ続ける昨今ですが、顧客との接点の差分なく、顧客を成功に導くことについて、企業は意志を持って進めていただきたいと思います。
また、弊社ではサービス・ドミナント・ロジックという考え方を通じたCXX戦略の設計、実現までの支援をしています。気軽にお問い合わせください。
廣瀬隆彦(CX Value Lab株式会社代表取締役)
エンターテイメント企業でアーティストのマーケティングや直販ECサイトなどの新規事業に従事、世界的レストランチェーンのマーケティング責任者や最大手フリマアプリ企業のカスタマーサービスのマネジメントを経て、CX Value Lab株式会社を創業。
SaaSベンチャー企業の支援や中小企業の新規事業・DX化支援などを中心に、社内起業家の育成なども行う。グロービス経営大学院大学卒業(経営学修士・MBA)
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