2022.11.07
以前、「顧客体験価値」を実現するためのコンセプトとして、CXX(顧客体験価値への変革 / Customer eXperience Transformation)を提示しました。
CXXを実現するために、中心的な役割を果たすコンセプト3要素の一つとして、以下3要素を挙げています。
前回は1のサービス・ドミナントロジックについて、ご説明しました
今回はH2Hマーケティングについて、なぜCXXを語る上で必要なのかを詳しく解説します。
目次
H2Hマーケティングは、「マーケティング3.0」などの代表作で著名なノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授のフィリップ・コトラーを中心として、2020年12月3日に出版された「H2H Marketing: The Genesis of Human-to-Human Marketing」という書籍で紹介されています。
日本語訳「コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践」は2021年9月29日に出版されました。
その中心的な主張はH2Hに込められています。これは「Human to Human」の略語で、人間を中核に添えた、人間のためのマーケティングであるべき、というものです。
弊社におけるマーケティングの定義は、「サービスや製品が持続的に売れ続ける仕組みを創ること」です。
すなわち、短期的にものを売り続けることでも、たまたまラッキーパンチを当てることでもありません。
再現性ある仕組みとして創ることまでがマーケティング活動における重要な論点です。
他方、ことマーケティングという言葉が「サービスや製品を効率的に売るための裏技」のように捉えられていることがあります。
私自身、マーケティングに携わり20年近く経っていますが、提案やサービス内容は時代によって変化があっても、SNSやWebなどで紹介されるマーケティングの支援やツール類は「導入によって売上が◯%UP」「経験がなくても知識がなくても始めて結果が出る」などの文字が踊ります。
マーケティングについてご相談を受ける場合も、解決策 – WebマーケやYouTubeで動画配信をしたい、Instagram経由でECを始めたいなど、具体的なアイデアをすでにお持ちですが、その背景や理由を丁重にお伺いすると、大抵はネットの記事、セミナー、事例を聞いてなどの理由です。
本質的に自社の課題にフィットしたマーケティング活動ではない限り、持続的に売れ続ける仕組みは構築できません。
話はやや脱線しましたが、「マーケティングが経営における裏技である」と伝わってしまっていることに対して、H2Hマーケティングは異を唱えます。
経済活動の基盤は日用品や高級品の販売ではなく、「信頼」と「他者への奉仕」という人間の価値であることを強調する。何より大切なのは商品や収益ではなく、人間そのものであることを明言し、人間の抱える重要な問題の解決手法としてマーケティングを捉え直す。
(コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践より引用)
弊社はこの想いに深く共感しています。
この本の冒頭で「マーケティングは世界を変えられる、我々はそう信じている」と綴られています。
マーケティング活動を人間中心的に変え、人間のためになるためのマーケティングに変化できる、弊社もそう信じています。
H2Hマーケティングを構成する打ち手として、以下の特徴的な視点があります。
上記うち、デザイン思考やサービス・ドミナント・ロジックについては、ぜひ過去のコラムをご参照ください。
また、弊社では前述の書籍「コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践」から、以下点についても重要な概念であると理解しています。
カスタマー・ベースド・ビューについては、同じく弊社コラムをご参照ください。
上記うち、マーケティングにおける「倫理観」と「デジタライゼーション」について解説していきます。
コラム冒頭でも課題提起しましたが、マーケティングの役割とはつまり何なのでしょうか。
現代においては、少なくとも「ツール」「手段」「技法」として捉えられることが大半ではないでしょうか。
価値のない、売りにくい商品をマーケティングという魔法、技法に載せると、売れていく。
それはもはや「嘘」や「欺瞞」ではないかという問いを、我々に投げかけます。
利益至上主義のマーケターの行き過ぎた非倫理的な行動により、従業員や顧客が持つマーケティングのイメージは近年悪化の一途を辿っている。大半の人は「マーケティング」と聞くと、「噓」「 欺瞞」「ごまかし」「迷惑」「操作的」といったネガティブな言葉を連想するようになり 1、市場調査結果の 捏造 等の不祥事が明るみに出たことで、そのイメージはさらに悪化した。
コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践より引用
そして何も「マーケティングが欺瞞である」と主張したいのではありません。
弊社では本質的に価値を持つが知られていない商材」があった場合、その価値を感じてくれるであろうターゲットに対して、効率的にかつ正しく伝えていく活動がマーケティングの打ち手であると理解しています。
よって、ターゲットが異なればターゲットを変える、メッセージングが異なれば改善する。
そして価値がなければ価値があるように磨く。
求める顧客に対して、サービスや製品によって、ターゲットがどのような体験価値を感じ、それに対して正しい対価を支払ってくれるかどうか。
こういったマーケティングにおける倫理観があってこそ初めて、ターゲットに価値を正しく伝えることができます。
世界を変えることができるマーケティングは倫理観に下支えされた計画や行動があってこそ成立するのです。
デジタライゼーションは昨今DX(デジタル・トランス・フォーメーション)の文脈で取り上げられます。
経済産業省2020 DXレポート2によると、DX、デジタライゼーション、そしてデジタイゼーションの違いは以下通り定義されています。
デジタライゼーションとは、「ITを利活用し、効率的・生産的な仕組みを作る」状態を指します。
従ってただデジタルツールやIoTなどを導入するのではなく、そこから何を生み出すか(利活用)、さらに効率的生産的な仕組みでそのプロセスを回すか(プロセスの整理)という点にあります。
デジタルは利活用して初めて価値が生じます。ただデータを出す、見るだけではデータを溜めている状態と大差がありません。
H2Hマーケティングにおいては、デジタライゼーションが必要な背景として、IoT技術をはじめ、顧客の行動や体験をデータによって分析し、さらに顧客へ還元するという観点で重要だと認識しています。
パーソナライズ(個人の最適化)された体験を作るために、IDをベースにデータを集積し、それを民主的にデータを解析し、顧客に還元する。
そのためにデジタライゼーションが必要な要素だと主張しています。
最後に、H2Hマインドセットについて解説していきます。
マーケティングは人の役に立つものであって、害なすものではないはずだ。マーケターは世界を良くするために働くか、自分のために働くかを意識的に選択できる。
コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践より引用
マーケティングは人や社会をより良くすることができる。
その可能性を信じ、CSRではなく、CSV(Creating Shared Valiue)を希求することが求められます。
対価は企業にとっての目標であり、結果です。目標を追求しながら、結果を出す、その上で社会をより良くするということに挑戦することが、マーケターに求められています。
そういったマインドセットを持ったマーケターに必要な要素は以下の4点です。
H2Hマーケティングにおける登場人物は実在の人として捉えます。従前におけるマーケティングではSTPと略語で呼ばれますが、
によって、顧客群を決めます。
両者の大きな違いは一目瞭然です。例えばSTPで区切られた呼び名は「30代男性・会社員」です。
対照的に前者で与えられる呼び名はペルソナであれば仮名が与えられます。さてどちらが人間中心的でしょうか?
サービス・ドミナント・ロジックの理論を理解した上で、顧客体験の成功を希求することがこのマインドセットの要素です。
あなたは自社で顧客が求める価値に合致する商材がない場合、他社と共創して進めることができますか?
日本人はどうしても100点満点を求めます。
これは答案ならいいのですが、実際の社会では足を引っ張ります。
この不確実なことが多い時代において、100点が取れる企画書はよっぽどの幸運が重ならない限り完成しないでしょう。
まずは60点の計画や企画を持って、試す中で、100点に近づけていく。
そのために必要なマインドセットは、常に正解はないという考え方と、アジャイル(俊敏性)に物事のPDCAを回すことが重要です。
マインドセット最後にはこの共感という視点があります。
デザイン思考の起点でもあるこの視点は、他者へ興味関心を持ち、時には顧客側の思いに共感し、時にはステークホルダーや社会の視点に共感すること。
Amazonのミーティングでは、いつも空席が1席あり、議題が紛糾した際にその空席を指差して「顧客だったらなんと言うだろうか」と言う問いを立てるもの、この視点に対しての共感を持つためのアクション例でしょう。
H2Hマーケティングをゴールデンサークルで整理しました。
マーケティング活動は企業側の売上の都合ではなく、顧客にその製品の正しい価値を正しく伝えること。
そのために必要なのはデザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック、デジタライゼーションという戦略を基盤にした、サービス、製品の本質的価値を顧客視点で正しく伝えることに尽きます。
「マーケティングがなんだか上手くいかない」という課題をお持ちでしたら、気軽にご相談をお待ちしております。
廣瀬隆彦(CX Value Lab株式会社代表取締役)
エンターテイメント企業でアーティストのマーケティングや直販ECサイトなどの新規事業に従事、世界的レストランチェーンのマーケティング責任者や最大手フリマアプリ企業のカスタマーサービスのマネジメントを経て、CX Value Lab株式会社を創業。
SaaSベンチャー企業の支援や中小企業の新規事業・DX化支援などを中心に、社内起業家の育成なども行う。グロービス経営大学院大学卒業(経営学修士・MBA)
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