2022.11.29
以前後述のコラムで「顧客体験価値」を実現するためのコンセプトとして、CXX(顧客体験価値への変革 / Customer eXperience Transformation)を提示しました。
CXXを実現するために、中心的な役割を果たすコンセプト3要素の一つとして、以下3要素を挙げています。
今回は3点目の要素、「サービス・プロフィット・チェーン」についてご説明します。
目次
サービス・プロフィット・チェーン理論の歴史は比較的古く、ハーバードのヘスケット教授、サッサー教授らが1994年に「Putting the Service-Profit Chain to Work」という論文で提唱しました。
ベースとしての考え方は、従業員満足度が顧客満足度を向上させて、それが企業としての収支に寄与し、その結果や原資を持って、従業員満足度がさらに向上する…この一通りの文脈を鎖のように強固なものとしてつないでいくというもので、シンプルに言えば「ES(Employee Satisfaction)」を高め「CS(Customer Satisfaction)」を高めて、結果的に「収益性を向上させそのサイクルを回す」とまとめることができます。
この理論の特筆すべき点は、労使関係で言えば今より雇用する側が強い時代いおいて、従業員満足度向上による効果を示した点、Webによる革命が起きる前夜において、継続率やリピーターなど、顧客との接点が企業にとって収益性の向上につながることを示した点が挙げられます。
サービス・プロフィット・チェーンがCXXを実現する上で必要不可欠な要素としては以下3点を挙げることができます。
それぞれについて詳しく解説したいと思います。
以前のコラムでサービス・ドミナント・ロジックについて取り上げました。
その基本的な考え方として、下記について取り上げました。
顧客は対価として、”価値を創造するサービス・オファー”を購入している。これはモノを買って終わりではなく、顧客が前述の媒体を通じて価値を享受できる状態になって初めて価値を得ることができる。
サービスドミナントロジックとは:CXXのコンセプト3要素
現代において、一度切りの販売でビジネスが成り立つ業種はほぼ皆無でしょうし、ほとんどの事業において、いかにリピーターを創るか、もしくはサブスクリプションのように、中長期的な便益提供による対価を得るビジネスモデルを構築するのは、勝ち筋として戦略に組み込むと考える企業がほとんどでしょう。
このリピーター作りもしくは中長期的な便益提供による対価については、サービス・プロフィット・チェーンでも重要なポイントとして挙げられています。
サービス提供価値が向上し、顧客満足度が向上すると、顧客ロイヤリティが向上します。この顧客ロイヤリティが向上した結果、「継続率」「リピーター」「紹介」という各指標に好影響があると言及しています。
ではこのサイクルを”モノ”だけで実現可能でしょうか?
“モノ”が期待値を遥かに上回れば、顧客側はその”モノ”を手に入れるためにあらゆる手段を講じるでしょう。ただし、IT革命以降の情報流通によって、技術的に作られた希少性は、少しずつ失われていきます。
もしその”モノ”が技術によって担保された希少性であるとすると、中長期的な優位性とするには難しいかもしれません。それよりリピートしたい顧客に対して、自社の”モノ”だけをすすめる状態(=ファン化)を創るためのCRMサービスを更に提供すれば、模倣する競合に対して有効です。
すなわち”モノ”だけに集中して販売する時代ではなく、”サービス”によって付加価値を創る、提供するためのチャネルや体験を創ることが前提です。
サービス・ドミナント・ロジックで言うところの”サービス・オファー”とは、”モノ”の提供だけではなく、”付加価値”も去ることながら、顧客との関係性構築(CRM – Customer Relation Management)もサービス・オファーです。
この一連の活動を実行するためには、前述したサイクルが重要なのです。
1でも触れましたが、サービスの提供価値が向上した結果、企業が得ることができる売上・収支を実現する指標として、サービス・プロフィット・チェーンでは、「継続率」「リピーター」「紹介」という指標に好影響があると述べられています。
各カスタマーサクセス指標については、以下コラムをご参照ください。
現代においては商品やビジネス設計時点で、この「継続率」「リピーター」「紹介」をいかに創るかが前提で企画されて然るべきでしょう。
一度切りの販売のビジネスではその対価を得る期間が短くなり、毎回新規獲得のためのプロモーションが戦略の前提となります。
新規獲得コストはリピーター獲得コストの5倍程度かかることは定石です(「1:5の法則」)。よってそれら指標が改善されることで、売上だけでなく、収益性にも好影響を与えます。
ところで“モノ”の付加価値としての”サービス”が顧客の期待値を上回ると、顧客ロイヤリティが向上します。どの企業にとっても顧客ロイヤリティは向上させたくて仕方がない指標です。
”サービス”が顧客の期待値を上回るためには、”おもてなし”も打ち手の一つではないかとお考えかもしれませんが、これについては私は少し異なると考えます。
正確に言えば、”おもてなし”が属人的ではなく、サービス提供部署に所属するメンバーが実行でき、再現ができるものになっているかが前提です。
”Good Intention doesn’t work, only Mechanism work.”(直訳:個人のナイスな考えや対応はワークしない、メカニズムだけがワークする)とはアマゾニアン(Amazon社員)で定石の考え方ですが、ここに個人の”おもてなし”と当てはめて頂ければおわかりかと思います。
サービス・プロフィット・チェーンにおいては、個人ではなく、組織的にどのようにロイヤリティを高め、それを再現可能にしていくかのオペラント資源(※主に顧客との共創関係において作られた、スキルやナレッジなどの無形資源”であり”継続性”があるもの / 詳しくはサービス・ドミナント・ロジックにおけるオペラント資源をご参照ください。)が重要です。
顧客ロイヤリティを高めるのであれば、組織的にどのように顧客の成功体験を創っていくかにかかっているのです。
“衣食満ち足りて礼節を知る”ということわざがあります。
これは衣食が充足されて初めて、礼節を知るという中国春秋時代に活躍した政治家・管仲による有名なことわざです。
これは”マズローの欲求五段階説”にも通ずるところもあります。
ビジネス環境においては、給与や自己実現が担保され、気持ちよく働くことができる環境が整ってこそ、従業員自身がチームメイトや顧客に対してどのような印象を与えているかを考えるようになるということと解釈できます。
サービス・プロフィット・チェーンでは、社内の働きやすさ(Internal Service Quality- 直訳すると社内向けサービスのクオリティ)を担保することが、従業員満足度の向上に繋がり、従業員の定着、従業員の生産性向上に寄与し、サービス提供価値の向上につながるとあります。
そして社内の働きやすさを担保するための論点として、以下5点を挙げています。
5項目すべて具体的のため個別説明は割愛しますが、少なくとも報酬だけ提供すればいいのではなく、はたまた環境だけを整えればいいのではない。
大切なのは、従業員が最大限能力を発揮するための職務規定、評価制度、ツール、そして環境であるということです。
その結果、従業員のモチベーションが向上し、「顧客ロイヤリティに向き合うためにどうするか」という問いに対して、顧客の体験に対し向き合い、共感して初めて、本質的な顧客ロイヤリティの向上につながる”鎖”となります。
今回はサービス・プロフィット・チェーンについて解説しました。
顧客体験価値を中心に添えた経営モデルを実践する中では、このサービス・プロフィット・チェーンという考え方はなくてはなりません。
顧客も”人”、そして顧客のためのやさしい体験を創る従業員もやはり”人”なのです。
社内はおざなりにして、社外に対して体裁を整えて、見え方だけを気にするような経営体質ではなく、覚悟をもって”社内”と向き合い、やさしい体験(易しいx優しい)のサイクルがこのサービス・プロフィット・チェーンの鎖をもって血流として回る、そんな企業が増え、企業が売りたいものを売るのではなく、また顧客が求めるものをただ創るのではなく、顧客の体験を価値と捉えて向き合い、戦略を立ててオペレーションに落とし込み、具体実行していく、そんな企業が増える日本、社会を創りたいと私は考えます。
現代において、ESを高めCSを高めるという問いは、半ば常識的な考え方かもしれません。ただし、この理論に対して本質的に向き合い、綺麗事だけではない企業経営において、実行していくことは非常に難易度が高いと言えます。
もし本質的に向き合う覚悟が必要ということであれば、少なくとも企業経営においてサービス・プロフィット・チェーンの各枠組みに対して、現在自社がどのような取り組みをしていて、従業員や顧客がどのような状態かのコンディションを定性的に洗い出すことはそれほど難しくない作業だと思います。
カスタマー・サクセスに向き合い、ロイヤリティの高い顧客を創出するというビジョンを描き、自社の持続的な成長に繋げて頂きたいと思います。
さて、ここまで3回に分けて、CXX(顧客体験価値への変革 / Customer eXperience Transformation)を構成する3要素について解説いたしました。
顧客体験を創るのは、決して難しいことではありません。
現状の顧客体験を整理し、あるべき姿を仮説、アクション後に改善していく、そのサイクルを回すための持続的な体制を整えることにあります。
人間中心のオペレーションとなるため、どうしても大企業では実現が難しく、逆に中小企業にとってチャンスがあると言えます。
実現に対してのチャンスがあるかどうか、ぜひ気軽に弊社までご相談ください。
最後までお読みくださいまして、ありがとうございます。
廣瀬隆彦(CX Value Lab株式会社代表取締役)
エンターテイメント企業でアーティストのマーケティングや直販ECサイトなどの新規事業に従事、世界的レストランチェーンのマーケティング責任者や最大手フリマアプリ企業のカスタマーサービスのマネジメントを経て、CX Value Lab株式会社を創業。
SaaSベンチャー企業の支援や中小企業の新規事業・DX化支援などを中心に、社内起業家の育成なども行う。
グロービス経営大学院大学卒業(経営学修士・MBA)
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