2023.01.11
このコラムでは、顧客体験価値こそが、製品・サービスを市場で訴求していく中で、必要不可欠であることについて、いくつかのコラムでご紹介してきました。
また、顧客体験価値を経営の軸足とするために、企業はどのような視点が必要なのか、という問いに対して4回のコラムでご紹介しました。
つまり、ゴールデン・サークルで言うところのWhy(なぜやるか)とWhat(何をするか)についてご紹介しました。今回からはHow(どのように実現するか)について、順次ご紹介していきたいと思います。
まずはオペレーションと組織について。
結論から言うと、顧客体験価値を定義し、実行するためには、アジャイルで進めることが前提となります。
“アジャイル”とは、システム開発で取り入れられる手法の一つです。
従来のシステム開発では、すべての機能を開発し、テストを行い、システムとしての納品というサイクルが一般的でした。一方で、アジャイル型は、システムの中に内包される必要な機能を分割し、機能ごとに企画・設計・実装とテストを繰り返しながら、機能ごとに実装していく手法です。
ウォーターフォール型はリリースやサービス開始に向けて、当初の企画や計画通りに実装でき、最終的に期待した効果を得られる場合は、非常に効率的なオペレーションと言えます。
ではなぜ現在はアジャイル型が主流なのでしょうか。
それはVUCA時代で代表されるような「不確実性の時代」背景が根底にあります。
つまり、市場の移り変わりが早く、変数の多い現代において、当初の企画や設計通りにシステムを構築したとしても、開発・実装の期間において、市場が大きく変化してしまうケースがほとんどであることが背景にあると言えます。
システム開発におけるアジャイルについてはこのコラムではこれ以上詳細にお伝えしませんが、マーケットや顧客の価値観においても変化の早い、不確実性の高い現在においてはシステムだけでなく、サービスや製品を開発する場合にもアジャイル型で進める必要があります。
現代は不確実性の時代背景であることから、顧客が採用や購入に至る決め手(Key Buying Factor)は移ろうものであるという前提が必要です。
この前提について当然だと考えられる方がほとんどでしょう。ただ、未だサービス・製品開発においては市場に顕在化しているニーズや、他社が成功したサービス・製品のコストリーダーシップ戦略やコスト集中を狙うプレイヤーが大半です。
同じ品質のモノで品質が良く、価格が安ければ購入するであろうと企図し、製品開発を行う。
このこと自体はマイケル・ポーターの競争戦略上正しいですし、消費財や家電製品などでは現代においても定石であるのですが、品質における差別化をひたすら企図し、失敗に突き進んでしまった家庭向けTVメーカーにおいては、顧客が不在であったと後世指摘されました。
すなわち、「いいモノを作り続ければ新しい市場が生まれ、顧客がついて来る」という論法です。
ではその後の日本でのものづくりが、顧客の真のニーズを探求し続け、製品開発をしているかと言えば、大企業ほど疑問です。
一方で、移ろう顧客の声を聞き続けても、いつまで経っても製品やサービスは完成しません。
その点では「顧客の声に向き合うこと」と「ありたい製品をつくること」という、一見するとトレードオフのようなこの2点をバランスさせることが重要なのです。
前段が長くなりましたが、それぞれをバランスさせるためにもアジャイルでの製品やサービスの開発が重要です。
製品やサービス開発におけるアジャイルとは、製品やサービス、もしくはMVP(Minimum Viable Product / 必要最小限かつ価値が理解できる試作品と弊社では定義)を顧客に体験をしてもらい、その観察とヒアリングを持って、製品・サービスの改善につなげることと定義しています。
既存製品やサービスでであれば、オペレーションの中にこのアジャイルが浸透していることで、常に製品やサービスはアップデートされますし、新規事業におけるMVPであれば、顧客に体験をしてもらう中で、顧客に提供できている価値の見極めや、新たな機会の発見、ということに至るでしょう。
アジャイルの具体的な進め方は当コラムでは述べませんが、企業でアジャイルを導入したものの、うまく機能しないことがほとんどです。
うまく行かない理由は、アジャイル自体のオペレーションに問題があるのではなく、進める組織とヒトの企業風土やマインドセットにあります。
アジャイルを進めるにあたっての前提は「失敗すること」です。
しかも「失敗するのは早ければ早いほど効果的」なのです。にも関わらず、組織によっては「失敗を許容できない」だったり、メンバーによっては「失敗して評価が低下する」ことに対する恐れが往々にして起きます。
そしてそれはトップメッセージによる行動変容を促す行動や、評価制度を変えることだけでは、本質的に変化しません(必要不可欠ではありますが)。
組織風土は生き物です。
企業がその成り立ちによって出来上がった組織風土は、創業者の思いから時に逸脱し、その企業の成功体験と共に想定外の方向に育って行きます。
その組織風土の成り立ちが日本の製造業が強い時代であったならなおさら、「同質化」と「熟成されたオペレーション」が深く浸透しています。
そしてそれは組織風土だけではなく、幹部社員や社員も同様です。
新しく入った社員も、そういった風土や先輩に影響されることがほとんどでしょう。誰も彼らにとっての「失敗」をしたくないのです。
こういった前提を持ちつつ、ではマネジメント層はどのように考えるべきか。そのヒントはハーバード大学のコッター教授による著書「CHANGE 組織はなぜ変われないのか」でも述べられています。
この本の中で、最新の研究結果の一つとして、ヒトは本能的に「生存チャネル」と「繁栄チャネル」を切り替えながら過ごしていることが言及されています。
ヒトは何かに遭遇した際に、生存チャネルか繁栄チャネルかを切り替えて、その後の行動を決めます。
生存チャネルは迅速な問題解決に効果を発揮し、繁栄チャネルはイノベーションとコラボレーションに繋がると言われます。
高度経済成長期において、日本企業は迅速な問題解決によって成長を果たしてきました。
一方で不確実性が高く、顧客のニーズが移ろう現代においては、繁栄チャネルが大きな役割を果たす、ということもおわかりかと思います。
そしてこの本の中ではアジャイルが成功している組織は繁栄チャネルが活性化されていると言及されています。
よく仕事は課題解決にあると言及されます。一方で顧客の移ろうニーズをキャッチアップし、取捨選択をしながら、より製品を改善していくというアジャイルにおいては、「視野を拡大」させ、より良くするための「エネルギーを上昇」させ、「情熱と興奮」を持って迅速にサイクルを回すことが必要です。
課題の特定までに至るには生存チャネルを活用し、解決には繁栄チャネルに切り替えて、アジャイルを回すことが理想的です。
今回は顧客体験価値を創造するためにはアジャイルが必要であること、アジャイルを回すためには「繁栄チャネル」を活性化させることについて言及しました。
オペレーションの変更や、心理的安全性や評価制度を変えるだけでは、旧来の企業風土の延長上であってアジャイルに進めることができません。
社内メンバーの「繁栄チャネル」をいかに活性化させるかが重要です。
その具体的な活性化の方法など、アジャイルに顧客体験価値を創造することについては、弊社で支援が可能です。
ぜひ気軽にお問い合わせください。
廣瀬隆彦(CX Value Lab株式会社代表取締役)
エンターテイメント企業でアーティストのマーケティングや直販ECサイトなどの新規事業に従事、世界的レストランチェーンのマーケティング責任者や最大手フリマアプリ企業のカスタマーサービスのマネジメントを経て、CX Value Lab株式会社を創業。
SaaSベンチャー企業の支援や中小企業の新規事業・DX化支援などを中心に、社内起業家の育成なども行う。
グロービス経営大学院大学卒業(経営学修士・MBA)
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