2026.09.02
価値は、相手に届いてはじめて価値になる
2026年6月から、天草のコミュニティFM「みつばちラジオ」(88.8MHz)で『やさしい体験をつくるラジオ』という番組を始めました。毎週金曜の14時から30分、廣瀬が単独でお話ししています。
このコラムは、その放送内容を文章に起こし直したものです。今回は第1回(6月5日放送)と第2回(6月12日放送)の2回分をまとめました。ラジオを聴き逃した方にも、車の中で流し聞きしていた方にも、あらためて読んでいただけるように書いています。
情報の非対称性をなくす、という番組コンセプト
番組の冒頭で、毎回こう名乗っています。
やさしい体験をつくるラジオ。情報の非対称性をなくし、経営者の体験を変える30分。
情報の非対称性、という言葉を選んだのには理由があります。
経営やマーケティングの世界には、知っている人と知らない人のあいだに、大きな情報の差があります。カタカナ語も多い。セミナーに行けば「まず戦略を」と言われるけれど、その戦略が何を指しているのかは、あまり説明されない。
廣瀬は愛知県名古屋市の出身で、エイベックスに入社して音楽のマーケティングを担当し、その後DXの支援に移り、グロービス経営大学院で学び直して、2020年3月にCX Value Lab株式会社を立ち上げました。
その過程でずっと感じていたのが、この差でした。難しいことを難しいまま話す人は多いけれど、経営者が本当に必要としているのは、難しいことをやさしい言葉で受け取ることのほうです。
だから、この番組では、できるだけカタカナ語を使わずに話すことにしています。マーケティングも、経営戦略も、日本語に置き換えながら進めていきます。
「やさしい」は、優しいではなく、易しい
社名にもある「やさしい体験」という言葉について、番組では毎回ふれています。
やさしい、というのは、誰にとっても伝わる、ということです。思いやりのある、という意味ももちろんありますが、それ以上に「わかりやすい」「易しい」のほうを指しています。
そして、体験とは価値のことです。商品そのものではなく、それを手にした人がどう感じたか。そこにしか価値は宿りません。
この2つをつなげると、番組でいちばん大事にしている一文になります。
価値は、相手に届いてはじめて、価値になる。
どれだけいいものを作っても、相手に届かなければ、それは価値になっていない。厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、裏を返せば、届け方を変えるだけで価値が生まれるということでもあります。
CX Value Lab株式会社は「共感と思いやりに満ちた、やさしい社会をつくる」ことをパーパスに掲げています。そのために大事にしている価値観が3つあります。
思いやる ── 相手の立場に立って考える
こころ通わせる ── 共感をベースに、双方向でやりとりする
ともにつくる ── 一方通行の助言ではなく、一緒に手を動かす
天草には2023年1月に初めて伺いました。コワーキングスペース「パララボ」さんにご縁をいただいたのがきっかけです。同年7月には天草市とパートナー協定を結び、いまは月に2〜3回のペースで通っています。
「いいものなのに売れない」の正体
ここからは第2回の内容です。
天草の経営者の方々とお話ししていて、いちばんよく聞く言葉があります。
「うちの商品、いいものなんですけどね」
「うちのサービス、本当にいいんですけどね」
「でも、なんで売れないんでしょうかね」
廣瀬自身、メーカーで働いていた頃にまったく同じことを思っていました。これだけ品質にこだわって作っているのに、なぜもっと届かないのだろう、と。
この「いいものなのに売れない」には、だいたい3つのパターンがあります。
ホームページもチラシも作ったけれど、反応が薄い
知り合いには褒められるけれど、新しいお客様にはなかなか届かない
お客様に来ていただいても「で、結局これって何がいいんですか」と聞かれてしまう
この3つ、根っこは同じだと考えています。
「誰に」「何を」「どう伝えるか」が、決まっていない。
うちはこんな会社で、こんな商品もあって、こんなサービスもあって、こんな歴史があって、こんなこだわりがあって──。
全部伝えたい気持ちは、よくわかります。本当にいいものだから。本当にこだわってきたから。
ただ、受け取る側からすると、たくさんありすぎて、いちばん肝心な「これは自分に関係があるのか」がわからないまま終わってしまう。そういうことが起きています。
マーケティングは、商売の翻訳
マーケティングという言葉は、ひと言で説明するのが難しい言葉です。番組では、こう言い換えています。
マーケティングは、商売の翻訳。
自分が作っているものの良さを、お客様の言葉に翻訳すること。それがマーケティングです。
そして、その翻訳に必要な要素は3つしかありません。
ひとつめ、「誰に」。お客様を絞り込むことです。ターゲット、と呼ばれるものですが、要は「どんな人に、いちばん喜んでほしいですか」という問いです。全員に売りたい、というのはありがたい気持ちですが、結果として誰にも刺さらない言葉になってしまいます。
ふたつめ、「何を」。商品やサービスのどこを切り取って伝えるか。コンセプト、と呼ばれるものですが、要は「一言で言うと、これは何ですか」という問いです。「うちは魚屋です」だけだと、隣の魚屋と同じに見える。でも「朝、漁師さんから直接買い付けた魚しか売らない魚屋です」なら、まったく違うものに見えてきます。
みっつめ、「どう伝えるか」。どの手段で、どの言葉で、どの順番で伝えるか。ホームページなのか、チラシなのか、口コミなのか。テクニックの話に見えますが、本質は「相手の生活のどこに、自分の言葉を置くか」だと考えています。
この3つは、よく考えるとすべて「相手のことを考える」という話です。CX Value Lab株式会社が価値観のひとつに「思いやる」を置いているのは、ここにつながっています。
マーケティングは、横文字で難しそうに聞こえますが、根っこは、相手を思いやるという素朴な話です。
尖らせるとは、選ぶこと。そして、捨てること
第2回の後半では、リスナーの方と一緒に、ひとつ頭の体操をしました。
天草の魅力を思い浮かべてみてください。鯛も、タコも、おいしい。晩柑も最高です。イルカウォッチングは年中できる。下田温泉はいい湯です。ハイヤ祭りの熱さは、行かないとわからない。崎津集落は潜伏キリシタンの歴史を抱えた世界遺産で、倉岳神社は山の上の鳥居の向こうに海と雲が広がっています。
全部、本当にいい。
そのうえで、質問です。もし、東京で働いている30代の、疲れた会社員の方に、たったひとつだけ天草を伝えるとしたら。どれを選びますか。
答えはひとつではありません。人によって違っていい。
ただ、おそらく「鯛もタコも晩柑もイルカも温泉もハイヤも、全部いいので来てください」とは言わないはずです。その方は疲れていて、情報を選んでいる余裕がないからです。
だから、この方にはこれがいちばん響くはずだ、というものをひとつ選ぶ。
尖らせるというのは、何かを「選ぶ」ことであり、本当の意味では、何かを「捨てる」ことでもある。
これは勇気のいる話です。魚を引っ込めたら魚屋さんに悪い、温泉を後ろにしたら温泉地の方に申し訳ない。そう思ってしまうのは、みなさんがやさしいからです。
でも、捨てるというより、「今この方には、これを先に届ける」と決める、ということなのだと思っています。
そして、ここで最初の話に戻ります。
やさしい、とは、誰にとっても伝わること。だとすれば、相手によって出すものを変えていい。むしろ、変えることのほうが、やさしさなのだと考えています。
この2回のまとめ
価値は、相手に届いてはじめて価値になる
「いいものなのに売れない」の正体は、「誰に・何を・どう伝えるか」が決まっていないこと
マーケティングは商売の翻訳。難しい話ではなく、相手を思いやる話
尖らせるとは、選ぶこと。そして、何かを先に届けると決めること
ここまで読んで、「言いたいことはわかった。でも、自分の会社で何を尖らせればいいのかがわからない」と思われた方もいるかもしれません。
尖らせるためには、自分の会社の「ものさし」が要ります。うちは何を大事にしている会社なのか。どこで勝負したいのか。どんなお客様に喜んでほしいのか。
その「ものさし」をつくる話が、第3回「経営戦略って、結局なんなんですか」です。次回のコラムでお届けします。
番組情報
『やさしい体験をつくるラジオ』
みつばちラジオ 88.8MHz/毎週金曜 14:00〜14:30(再放送:日曜 9:00〜9:30)
ナビゲーター:廣瀬 隆彦(CX Value Lab株式会社 代表取締役)
番組へのご感想、「うちの会社の場合はどうなのか」というご相談も承っています。お問い合わせは フォームまで。

