UNLEASH

2026.09.30

いちばんいい宣伝の言葉は、お客さんの口の中にある

2026年6月から、天草のコミュニティFM「みつばちラジオ」(88.8MHz)で『やさしい体験をつくるラジオ』という番組を始めました。毎週金曜の14時から30分、天草で商売をされている経営者に向けて、CX Value Lab株式会社の廣瀬がお話ししています。

このコラムは、その放送を文章に起こし直したものです。今回は第7回(7月17日放送)と第8回(7月24日放送)の2回分。テーマは「聞くこと」と「口コミ」です。

前回までは、値づけと見せ方の話をしました。どちらも「こちらから、どう伝えるか」の話です。でも商売は、それだけではありません。お客さんの声を受け取る。聞く。そこから始まる部分がある。この2回は、そちら側の話です。

「満足です」と言った人が、戻ってこない

お客さんに聞き取りの紙を書いてもらう。帰りぎわに「今日はいかがでしたか」と聞いてみる。返ってくるのは、たいてい「満足です」「おいしかったです」「また来ます」。うれしい言葉です。

ところが、その「また来ます」と言ってくれた人が、ぜんぜん戻ってこない。

廣瀬はこれが不思議でしかたがありませんでした。紙の上にはいい言葉が並んでいる。なのに、次につながらない。いろいろ考えて、たどりついたのはこういうことです。

お客さんは、面と向かって本音を言ってくれない。

考えてみれば当たり前です。店の人を目の前にして、「ここがいまいちでした」「正直、高いと思いました」なんて、なかなか言えません。気をつかいます。波風を立てたくない。だから当たりさわりのない「満足です」ですませる。これはお客さんが悪いのではなく、人としてふつうのやさしさです。

お客さんは、不満を、言ってくれません。だまって、いなくなるだけ、なんです。

ここがいちばんこわいところです。文句を言ってくれる人は、まだありがたい。気にかけてくれているということですから。でも、ほんとうにがっかりした人は、何も言わずに二度と来なくなる。こちらは、なぜ来なくなったのか最後までわからない。気づいたときには、もういない。

つまり「満足ですか」という聞き方そのものが、ずれているのです。そう聞かれたら、たいていの人は「はい」と答える。それ以外に答えようがない。やさしい質問すぎて、本音がすり抜けてしまう。

お客さんのほんとうの気持ちは、紙のきれいな「満足」の欄ではなく、その外側にぽろっとこぼれています。立ち話のひとことだったり、ふとした表情だったり。

魔法の質問、ふたつ

では、どう聞けばいいのか。第7回では、廣瀬が「魔法の質問」と呼んでいるものをふたつ紹介しました。お客さんを誘導する技ではありません。ほんとうは思っているのに、うまく言葉にできていないことを、そっと引き出してあげる聞き方です。

ひとつめは、選んでくれた理由を聞く質問。

「満足でしたか」と聞くと、「はい」で終わる。「決め手は、なんでしたか」と聞くと、宝物が、返ってくるんです。

「今日、いくつかある中で、これに決めた決め手はなんでしたか」。こう聞かれると、お客さんはちょっと考えて、自分の言葉で答えてくれます。「お店の人がこう言ってくれたから」「駐車場が停めやすかったから」。

面白いのは、返ってくる答えが、こちらの思ってもみなかったところだったりすることです。料理の味で選ばれていると思っていたのに、「いや、あのひとことが決め手で」と言われる。店の中にいると見えない自分のほんとうの強みを、お客さんが教えてくれます。

慣れてきたら、上級編もあります。「もし、うちの店がなかったら、どこに行っていましたか」。どきっとする質問ですが、お客さんがほかのどこと迷ったのか、何が決め手でこちらを選んでくれたのかが見えてきます。「うーん、ほかに思いつかないなあ」と言われたら、しめたもの。それはあなたの店に代わりがない、といういちばん強い答えです。

「うちが無かったら、どこへ?」。その答えの中に、あなたの、ほんとうの強みが、隠れています。

ふたつめは、お客さんの言葉をもらう質問。

「もし、お友だちにうちの店を紹介するとしたら、なんて言ってくれますか」。

こう聞くと、お客さんは自分の言葉で店を説明してくれます。「えーと、安くて、気取らなくて、ふらっと入れる感じかなあ」。「なんか、ほっとするところ、って言うかなあ」。

この、お客さんの口から出てきた言葉が、ものすごく大事です。お客さんが友だちに向かって言う言葉は、同じようなお客さんにいちばん刺さる言葉だからです。

前回、チラシやお品書きの言葉をどう書くかという話をしました。「いい言葉がなかなか思いつかない」と悩んでいた方。その言葉は、自分の頭の中でひねり出さなくていいのです。

いちばん、いい宣伝の言葉は、あなたの頭の中じゃなくて、お客さんの、口の中に、あるんです。

プロがうんうんうなって考えた宣伝文句よりも、ふつうのお客さんがぽろっと言った「なんか、ほっとする」のほうが、よっぽど届く。だから聞いたら、すかさずメモする。そして次のチラシやホームページに、そのまま使わせてもらう。

気持ちを聞くとお世辞、行動を聞くと本音

このふたつの質問、どちらもお客さんの「気持ち」を聞いていません。聞いているのは「行動」と「理由」です。

「満足ですか」は気持ちを聞いている。だからあいまいな「はい」で終わる。「決め手は」「紹介するならなんて」は、具体的な行動と理由を聞いている。だからお客さんも具体的に答えるしかない。そこに本音がにじみ出ます。

気持ちを聞くと、お世辞が、返ってくる。行動を聞くと、本音が、返ってくるんです。

たまに、耳の痛い声も返ってきます。「正直、ちょっとわかりにくかった」とか。でも落ち込まなくていい。むしろありがたいことです。その人は、だまって去っていく代わりに、わざわざ教えてくれたのですから。耳の痛い声は、いちばんやさしい改善の地図です。

第7回であげた、明日からできることは三つ。

一日にひとりだけ、決め手を聞いてみる。 全員に聞かなくていい。お会計のとき、雰囲気のよさそうな方ひとりに。一日ひとりで、一週間で五人、一か月で二十人。けっこうな数です。最初は勇気がいります。廣瀬もそうでした。でもやってみるとわかる。お客さんはけっこううれしそうに答えてくれます。自分の選んだ理由を聞いてもらえるのは、悪い気がしないのです。

常連さんに、思いきって聞いてみる。 いちばん聞きやすくて、いちばん答えが深いのが常連さんです。「いつもありがとうございます。失礼ですけど、どうしてうちに通ってくださるんですか」。照れますが、返ってくるひとことが宝物です。「なんでだろう、考えたことなかったけど……ここに来ると、ほっとするんだよね」。何年も気づかずに提供してきたいちばんの価値が、そのひとことに詰まっています。

返ってきた言葉を、メモする。 せっかくいい言葉をもらっても、その場で流してしまえば消えます。スマホのメモでも、レジの裏の紙きれでもいい。続けていくと、あなただけの言葉の貯金箱ができます。いざチラシを書きなおすときに、それを開く。自分でひねり出さなくていい。

アンケート用紙より、お客さんとの、ひとことの、立ち話。本音は、そっちに、こぼれています。

「紹介してください」が、言いにくい理由

ここからは第8回の内容です。

聞いた言葉を、次にどう使うか。第8回のテーマは「お客さんが、つぎのお客さんを連れてくる」、つまり口コミです。

いいものを出していれば、放っておいても口コミで広がるはず。廣瀬も昔そう思っていました。でも現実はそんなに甘くない。いいお店なのに知られていない。そういう店は天草にもたくさんあります。

かといって「よかったら、お友だちに紹介してください」とお願いするのは、いざ言おうとするとすごく言いにくい。押し売りみたいで、図々しいような気がして。廣瀬は言えませんでした。

頼むのは気が引ける。黙って待っていても広がらない。では、どうするか。考えて、こう気づきました。口コミが広がらないのは、お客さんが気に入っていないからではない。気に入ってくださっている。でも「人に伝える」ところで止まっているのだ、と。

お客さんは、けっこう、気に入ってくれています。ただ、それを「人に伝える」のが、めんどうなだけ、なんです。

自分がお客さんの立場だったら、と考えてみてください。すごくいい店を見つけた。でもそれをわざわざ友だちに説明するのは、ちょっと手間です。「どこにあるの」「何がいいの」と聞かれて、うまく答えられる自信がない。だから、いいと思ってもつい言いそびれる。

悪気はない。ただ伝えるのがめんどうで、言いにくいだけ。だとしたら、店の側がやることはひとつです。

口コミは、頼んで、増やすものじゃなくて、「言いやすく」して、あげるもの、なんです。

人は「いいお店」ではなく、「勧めても恥ずかしくない店」を勧める

第8回では、大事なことを三つ話しました。

ひとつめは、紹介する人の身になって考えること。

口コミを、つい「どうしたら、うちのことを話してもらえるか」と考えてしまいます。主語が、うち、なのです。でも考えるべきはそこではありません。

人に店を勧めるのは、じつは勇気のいることです。もし勧めた店がいまいちだったら。連れていった友だちに「あそこ、たいしたことなかったね」と言われたら。勧めた自分の顔がつぶれる。恥ずかしい。

人は、「いいお店」を、勧めるんじゃ、ないんです。「勧めても、恥ずかしくない、お店」を、勧めるんです。

だからいちばんの口コミ対策は、地味なようですが、目の前のお客さんひとりひとりに「この人なら、誰に紹介されても大丈夫」と思ってもらえる仕事をすること。派手なしかけより、まずそこ。紹介する人に、恥をかかせない。

ふたつめは、お客さんに言葉を渡してあげること。

前回、「紹介するとしたら、なんて言いますか」と聞いてみましょうという話をしました。そこで返ってきた「ふらっと入れる」「なんか、ほっとする」という言葉。聞いてメモして終わりでは、もったいない。

その言葉を、こんどはこちらからお客さんに渡すのです。お会計のときに、さらっと「うちは、"ふらっと入れる、気取らない店"って、よく言っていただくんですよ」と言ってみる。聞いたお客さんは「ああ、そうそう、まさにそれ」となる。そして、その言葉が頭に残る。

あとで友だちに「いい店ない?」と聞かれたとき、「あー、あそこ、ふらっと入れて、気取らなくていいよ」とすっと出てくる。自分でひねり出さなくていい。もう言葉が用意されているから、伝えるのがぐっと楽になります。

お客さんに、うちを、説明する言葉まで、渡してあげる。そこまでして、はじめて、口コミは、動きだすんです。

店の「合言葉」を作るようなものです。むずかしいキャッチコピーでなくていい。むしろ、お客さんが実際に言ってくれた素朴な言葉のほうがいい。それがいちばん言いやすくて、次のお客さんにもいちばん伝わる言葉なのですから。

みっつめは、連れてきてくれたことに気づいて、お礼を伝えること。

お客さんが誰かを連れてきてくれた。「◯◯さんに聞いて来ました」という新しいお客さんがいらした。そのとき、ちゃんと気づいていますか。そして、紹介してくれた元のお客さんに、お礼を伝えていますか。

ここが抜けている店は多いのです。連れてきてもらって当たり前、のようになっている。でも紹介は勇気のいることです。その勇気にこちらが気づいて、「◯◯さん、ご紹介ありがとうございました。おかげさまで、いい方に来ていただけました」とひとこと伝える。

言われたお客さんは「ちゃんと見ていてくれたんだ」「喜んでもらえたんだ」とうれしくなる。そして、また誰かを紹介したくなる。口コミは、この感謝の循環で回っていきます。

紹介してくれた人に、「ありがとう」を、返す。それが、次の、口コミの、種に、なるんです。

第8回の、明日からできることも三つです。うちの合言葉をひとつ決める。新しいお客さんに「どちらのご紹介ですか」と聞いてみる。そして、連れてきてくれた人をいちばん大事にする。

三つめだけ、補足させてください。新しいお客さんにいい顔をするのは、みなさん自然にやっています。つい忘れがちなのが、連れてきてくれたほうのお客さんです。その人は、自分の顔をかけて大切な友だちを連れてきてくれた、いちばんの味方です。

新しいお客さんより、まず、連れてきてくれた人に、「ありがとう」。順番を、まちがえないこと、なんです。

聞くことは、いちばんやさしい思いやり

この2回に共通しているのは、こちらの思い込みで完結しない、ということです。

届いたかどうかは、こちらが決めることではありません。お客さんが決めること。自分では「これだけ伝わっているはず」と思っていても、まったく別の受け取られ方をしている。そんなことはざらにあります。だから聞く。たしかめる。

そして、聞くということ自体が、お客さんへの思いやりです。「あなたの声を聞かせてください」とたずねられたら、お客さんは「この店は自分のことを気にかけてくれているんだな」と感じます。聞くというのは、相手に関心を向けるということ。あなたのことをちゃんと見ていますよ、という合図なのです。

聞く、というのは、いちばん、やさしい、思いやりの、かたちなんです。

CX Value Labは、「共感と思いやりに満ちた、やさしい社会をつくる」ことを会社の目的に掲げて活動しています。やさしい、というのは、誰にとっても伝わるということ。聞いて、はじめて相手のことがわかる。わかって、はじめてほんとうに伝わるものが見えてくる。聞くことと伝えることは、ぐるりとつながっています。

価値は、相手に届いて、はじめて、価値になる。

口コミは、まさにこれです。店のよさが目の前のお客さんに届く。そのお客さんを通じて、こんどは次の人に届く。よさが人から人へ、リレーのように渡っていく。宣伝をお客さんが代わりにしてくださる。それは、店を一緒につくってもらえている、ということです。

この2回のまとめ

  • お客さんは面と向かって本音を言わない。がっかりした人はだまっていなくなる。「満足ですか」では、ほんとうの気持ちは聞けない

  • 聞き方を変えれば本音は引き出せる。「決め手はなんでしたか」「もし、うちが無かったら」「友だちになんて紹介します」。気持ちではなく、行動と理由を聞く

  • 口コミは頼んで増やすものではなく、言いやすくしてあげるもの。人は「いい店」ではなく「勧めても恥ずかしくない店」を勧める

  • 明日からの一歩は、一日ひとりに決め手を聞く、返ってきた言葉をメモする、うちの合言葉をひとつ決める、そして連れてきてくれた人に先にお礼を言う

値づけ、見せ方、聞き方、口コミ。ここまでは、人と人のあいだで価値をどう届けるかという話でした。次回は第9回「AIは、経営者にとってのチャンス」。天草で開いているAIの勉強会で実際に起きたことを入り口に、中小企業の経営者にとってAIとは何なのかをお話しします。

番組情報

『やさしい体験をつくるラジオ』
みつばちラジオ 88.8MHz/毎週金曜 14:00〜14:30(再放送:日曜 9:00〜9:30)
ナビゲーター:廣瀬 隆彦(CX Value Lab株式会社 代表取締役)

番組へのご感想、「うちの会社の場合はどうなのか」というご相談も承っています。
お問い合わせはフォームまで。

寄稿者

代表取締役

廣瀬 隆彦

エイベックス株式会社で安室奈美恵などのマーケティングや直販ECサイトの立ち上げなどを歴任。 グローバルレストランチェーンのマーケティング責任者を経てメルカリへ入社。マネジメントとして育成や業務品質・生産性向上などに貢献。その傍らで中小企業代表100名以上と接し感じた原体験から、中小企業と社会に役立つ事業戦略の実現を目的としたCX Value Lab株式会社を設立。全国の中小企業のマーケティング支援、イノベーション・新規事業創出やベンチャー企業の経営戦略などを多数支援。

特許庁 熊本市知財経営支援モデル地域創出事業 事業承継プロデューサー
INPIT IPランドスケープ支援事業 調査員
INPIT 独立行政法人工業所有権情報・研修館 窓口専門家

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